水力発電のメリット・デメリットとは? ダム式などの仕組みも解説
水力発電について、どんなイメージを持っていますか?
真っ先に思い浮かぶのは大きなダムかもしれませんが、実は水力発電にも様々な種類や発電方法があります。
この記事では、水力発電の種類や仕組み、メリット・デメリットなどについて詳しく解説していきます。
水力発電とは?どんな仕組み?
水力発電とは、文字通り水の力で発電を行うことを指しますが、
仕組みや種類まで理解している人は意外と少ないかもしれません。
ここでは、水力発電の仕組みや種類、歴史などについて解説していきます。
水力発電が電気を生み出す仕組み
水力発電が電気を創り出す仕組みは意外と単純です。
水を高いところから低いところへ落とし、そのときの水の勢い(位置エネルギー)で
水車(タービン)を回転させ、水車と直結している発電機を動かして発電します。
実は、発電機を動かして発電を行うのは、水力発電に限ったことではありません。
発電機を動かす原動力が違うだけで、火力や風力、原子力なども同じ理屈です。
ただし、太陽光発電だけは発電機を用いず、太陽光パネルで発電します。
水力発電を構造物で分けると3種類
水力発電を構造物による違いで分けると、「ダム式」、「水路式」、「ダム水路式」の3種類になります。
ダム式
ダム式の水力発電は、両岸に岩がそびえている河川を横断する形でダムを建設して人工的に湖(池)を作り、
その真下に作った発電所に水を落とすことで発電する仕組みです。
後で紹介する発電方式での分類では、貯水池式や調整池式と組み合わせて運用されます。
水の落差を利用する性質上、ダムの水位が上がるほど勢いのある水流で
より多くの発電をすることが可能です。
反対にダムの水位が低くなると落差が小さくなり、発電量が落ちてしまいます。
ダム式のデメリットとしては、ダムを建設できるような、
両岸に岩がそびえているといった条件に合う河川が少ないことです。
また、高度経済成長期からのダム建設ラッシュにより、
日本において大規模なダムが建設できるような河川はもうほとんど残っていません。
ちなみに、ダムと聞くと表面から水流が吹き出している姿を想像しますが、
実際に水力発電で使用する水流はダムの内側を通って発電所の水車へ流れ込む仕組みになっています。
水路式
水路式とは、水路を用いて河川の水を導き、
落差のある場所から水を落とすことによる勢い(位置エネルギー)で発電する方法です。
具体的には、河川の上流に水を引き入れるための取水堰(しゅすいぜき)を作り、
引き入れた水を河川の流れよりも傾斜がゆるい水路に通して落差のある場所まで導きます。
そして、落差のある場所から水を落として発電を行う仕組みです。
水路へ通した川の水は、最終的に元の川へ戻るようになっています。
メリットとしては小さな取水堰を作るだけなので比較的コストがかからないことが挙げられます。
反面、デメリットとしてはダムのように水を貯めるわけではないため、
落差のある場所から落としても水の勢いが弱く、発電量が少ないということが挙げられます。
こうしたことから、水路式は比較的小規模の水力発電施設で用いられる場合が多くなります。
ダム水路式
ダム水路式は、上記で紹介したダム式と水路式を合わせた構造で、
ダムによって貯めた水を水路を用いて落差のある場所まで導き、
そこから水を落とすことによる勢い(位置エネルギー)で発電を行う方法です。
ダム水路式は、ダム式に比べると高い堤防を作る必要がないため低コストで済み、
水路式に比べると水の勢いを確保できるためより多くの発電量が期待できるといったメリットがあります。
また、ダム式は建設できる場所に限りがありますが、ダム水路式はより多くの場所で建設が可能です。
水力発電を発電方式で分けると4種類
水力発電を発電方式による違いで分けると、
「流れ込み式(自流式)」、「調整池式」、「貯水池式」、「揚水式」の4種類になります。
流れ込み式(自流式)
流れ込み式(自流式)は、川の流れをそのまま発電に利用する方式を指します。
流れ込み式の発電量は川の水量に左右されるため、
豊水期には発電量増え、渇水期には発電量が減ります。
発電量が安定しないという欠点はあるものの、
他の発電方式に比べて建設コストが最小限で済み、環境への影響も少ないというメリットがあります。
調整池式(小規模ダム)
調整池式とは、川の水を貯水する調整池を作り、
その中に1日~1週間分程度の発電用水を貯めておく発電方法です。
調整池に貯水した水は、電力消費が大きくなる時間帯に流すことで
発電量を調整することができます。
流れ込み式よりも効率的な発電ができるため、
短時間の天候の変化や電力需要の変化にも対応できます。
また、貯水量も貯水池式(ダム)に比べれば少ないため、環境への影響も限定的です。
貯水池式(ダム)
貯水池式はいわゆるダムのことで、構造物で分けた中のダム式やダム水路式に当てはまります。
ダムで河川をせき止め、梅雨や雪解け、台風、大雨などの満水期にできる限り貯水しておき、
電力需要が高まる夏場や冬場に合わせて放水して発電します。
欠点としては、貯水池式に適した河川が日本では限られていることや、
巨大な施設になるため周辺地域の水没、環境変化などが懸念されます。
そのため、周辺地域の住民の方から協力を貰えなければ建設が行なえません。
揚水式
水力発電所の上部と下部に調整池(ダム)を作り、
昼間の電力消費が多い時間帯は上部の調整池から下部の調整池へ水を落とし発電します。
夜間になったら、余剰電力(余った電力)を使用して、
下部の調整池から上部の調整池へ電動ポンプで水を汲み上げて移動しておきます。
揚水式による発電はエネルギーロスが大きいため効率的とは言えませんが、
上部の調整池に水が溜まっているときならいつでも発電を行えることから、
巨大な蓄電池としてとらえることも可能です。
水力発電の歴史
はじめて水力発電によって電気がつくれたのは、110年以上も昔の明治20年代です。
その当時建設された水力発電所としては、仙台「三居沢発電所」や京都「蹴上発電所」が有名で、
現在も電気をつくり続けています。
水力発電所の意義は時代とともに大きく変わっており、
オイルショック以前は高度経済成長による爆発的な電力需要の増加を支えるために、
ダム式を中心とした大規模な発電能力が求められました。
オイルショック以降は、二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しない、
石油に替わる再生可能エネルギーとして、
その他の再生可能エネルギーと並んで存在感を増してきています。
(参考資料:経済産業省 資源エネルギー庁「水力発電の歩み|社会に貢献する水力|水力発電について|資源エネルギー庁」)
水力発電のメリット
ここからは、水力発電のメリットについて解説していきます。
温室効果ガスを排出しない
水力発電のメリットとして最初にご紹介したいのは、
二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しないクリーンな再生可能エネルギーである、という点です。
現在、地球温暖化の進行を止めるために、
世界の多くの国々では温室効果ガスの削減目標を定め、それに向かって様々な努力が行われている最中です。
そうした中、2015年に開かれたパリ協定において、
日本は2030年までに2013年比で温室効果ガスの排出を26%削減することを目標として掲げました。
この温室効果ガスの削減目標を達成するために、
水資源豊富な日本では、110年前から行われている再生可能エネルギー「水力発電」が、
今後ますます重要になっていくでしょう。
発電や管理にかかるコストが安い
水力発電のメリットとして、原子力発電や火力発電に比べて
発電・管理・維持にかかるコストが安いという点です。
原子力発電にはウラン燃料、火力発電には石油・石炭といった化石燃料が必要となります。
これらはすべて有料で、現状では海外から輸入してまかなっています。
また、こうした化石燃料などが値上がりすると、「燃料調整費」という形で
一般家庭の電気代にしわ寄せが来ています。
それに比べ、水力発電の原料である水は無料です。
特に水資源が豊富な日本では、水力発電はとても好相性と言えます。
また、原子力発電や火力発電に比べると、発電施設の管理や維持も低コストで済みます。
再生可能エネルギーである
「温室効果ガスを排出しない」というところでも少し触れましたが、
水力発電は太陽光発電や風力発電などと同じく、再生可能エネルギーです。
再生可能エネルギーとは、水力、太陽光、風力、地熱といった
自然界に常に存在するエネルギーのことを指し、石油など化石燃料と比べて、
- 枯渇することがない
- 地球上のどこにでも存在する
- CO2など温室効果ガスを排出しない(※太陽光発電は火力発電と比較してCO2の排出が少ないです)。
といった良い特徴があります。
また水力発電の場合ですと、発電として使用した水は海へ戻り、
蒸発して再び雨となりまた河川やダムへ戻ってきます。
こうした自然の循環によって「再生可能」という点が、再生可能エネルギーの最大の特徴です。
エネルギー変換効率は驚異の80%!
エネルギー変換効率とは、熱エネルギーや太陽光エネルギーなどを、
どのくらい電気に変換できるか、を示した値です。
この変換効率が高いほど、無駄なく発電を行えることになります。
一般的な火力発電の変換効率は35~43%程度、原子力発電で33%、
再生可能エネルギーの風力発電で25%、太陽光で15~20%という中、
水力発電は驚異の80%という、断トツで高い変換効率を誇ります。
エネルギー変換効率一覧
水力発電 | 80% |
---|---|
火力発電(LNG) | 55% |
火力蒸気T | 43% |
ガスタービン | 35% |
原子力発電 | 33% |
風力発電 | 25% |
太陽光発電 | 15~20% |
地熱発電 | 8% |
海洋温度差 | 3% |
バイオマス発電 | 1% |
(参照:関西電力「再生可能エネルギーへの取組み 水力発電の概要」)
水力発電の変化効率が高い理由としては、水を高い場所から低い場所へ落とす際の
「位置エネルギー」や「運動エネルギー」を最小限のロスで電気へ変えられることが挙げられます。
電力需要の増減にも対応可能
先程ご紹介した上下2つのダムを用いて発電を行う「揚水式」の水力発電は、
電力の需要にあわせて、足りない場合は発電を行い、
電気が十分ある場合は発電を行わないといった対応が柔軟に可能です。
こうした水力発電の「貯めておける」という点も、
他の再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電より優れているポイントと言えます。
水力発電のデメリット
続いて、水力発電のデメリットについても確認していきましょう。
発電量が降水量に左右される
水力発電のデメリットは、十分な発電を行うためには十分な水が必要という点です。
そのため、雨が少なく水不足などに陥ってしまうと、川やダムの水が減り、
十分な発電を行えなくってしまう可能性があります。
ダム建設に多額の初期費用がかかる
メリットの項目で、水力発電は「発電や管理にかかるコストが安い」とご紹介しました。
しかし、ダム式での発電の場合は、最初にダムの建設費用が必要となります。
ダムの建設費用は規模にもよりますが、有名な黒部ダムでは当時の金額で513億円以上の費用がかかったとされています。
(金額の参考資料:関西電力「正規の大工事~くろよん建設ヒストリー~」より)
ダムの建設は基本的に公共事業で行われるため、
こうした費用は税金から支出されることになります。
こうしたことから、ダムの建設そのものを見直す活動もかなり以前から行われており、
その影響で建設を中止したダムも多くあります。
ダムが周辺住民や環境に影響を与える
水力発電の肝となるダムが抱える問題はまだあります。
ダム建設によって、広範囲の地域が水没し、その地域に住んでいる人が移住を余儀なくされたり、
自然環境が破壊されたりもしてきました。
こうした中で、世界では「脱ダム宣言」をはじめとした反対運動が強くなってきています。
水力発電の現状と今後の展望
最後に、水力発電の現状や今後の展望についてご紹介していきます。
大規模なダム建設はほとんど終了
日本における大規模なダム建設はほとんど終了しており、
21世紀以降は中規模の水力発電所の建設が主流になっています。
これは、日本に大規模なダムに適した地点がそれほど多くなく、
建設可能な地点へのダム建設はすでに完了していることを示しています。
つまり、現在は中規模の貯水池やダム建設が中心となっていますが、
中規模といっても平均出力は4,500kWにのぼり、
4人家族の消費電力であれば約1,500世帯をカバーできる規模です(1世帯あたり約30Aとした場合)。
水資源に恵まれた日本は、今後も中規模の水力発電施設の建設が進んでいくと予想されます。
出力1,000kW以下の「マイクロ水力発電」も登場
水力発電を取り巻く新しい動きとして、出力が1,000kW以下の「マイクロ水力発電」をご紹介します。
マイクロ水力発電は、通常の水力発電所と比べてとても小規模なのが特徴で、
発電方法の分類としては流れ込み式(自流式)となります。
「マイクロ水力発電」は小水力発電と呼ばれ、大中の水力発電に比べて
- 大規模な河川は必要なく、小規模な小川や農業用水などでも発電可能
- 川の流れを利用する「流れ込み式(自流式)」なので、環境への影響がわずか
- 自分たちで創った電気を自分たちの地域で消費可能
といったメリットがあります。
この「マイクロ水力発電」は、現時点で日本ではほとんど普及していませんが、
既に一部の河川や農業用水路、砂防堰堤、水道用水などで導入事例があります。
こうした小規模の水力発電が普及することで、今後の水力発電の状況も変わってくるかもしれません。
※記載内容は掲載当時のものであり、変更されている場合がございます。